蘭このみスペイン舞踊

平成15年度文化庁芸術祭大賞受賞作品

【桜幻想】


第1部 La fantasia de la sombra
−黒の幻想−

出演:蘭このみ
蘭このみスペイン舞踊カンパニー

第2部 「桜幻想」

坂口安吾原作“桜の森の満開の下”より

出演:蘭このみ 尾上菊紫郎

ギター:染谷ひろし

脚本:川崎哲男
演出:原田一樹
美術・衣装:朝倉 摂

美しと思うものこそ恐ろしき
人の思いに 果てぞなき
桜の森に、また、果てぞなき

【パンフレットより】 

演出 原田一樹

 前回の桜幻想のパンフレットには、蘭このみの舞踊の印象について、確か一本の杭のようだと書いた覚えがある。上演する物語が「桜の森の満開の下」で、どうやって舞台に「風」のイメージを持ち込もうかと考えていたりしたものだから、稽古に通う中で彼女の踊りにあえてそういうイメージを持とうとしたのかもしれない。荒野で風にさらされながら立ち続ける杭。風が強ければ強いほど、その杭の打ち込まれた深さと、大地の堅固さを見るものに想像させる。前回から今回で変わったことといえば、演出としてはまがりなりにもご一緒して本番を迎えたということなのだが、基本的なイメージは変わっていない。ただ、今まだ稽古を迎える前に蘭このみのあの作品についてあれこれ情景を思い返していると、あの杭の強さのイメージは一体何なのだろうと考えざるを得ない。風に向かうなどということではないような気がしてくるのである。これは、舞踊に限ったことではないのだけれど、優れたパフォーマーの身体のもたらす緊張感は、そのパフォーマーが何と向き合っているかということに尽きる。向き合っているものの不可能が深ければ深いほど、目の前に立つ突き抜けるべき壁が厚ければ厚いほど、パフォーマーの身体は立ち向かうエネルギーに包まれる。おそらく、蘭このみの立ち向かっている不可能は、坂口安吾の立ち向かっていた不可能と同じ類のものなのだ。と、いうことは、私たちスタッフの仕事は、この不可能を舞台の上に、つまり鑑賞者の想像の世界に、どのように立ち上がらせるか、ということにつきるわけなのである。