劇団キンダースペース創立30周年記念公演第一弾

劇団キンダースペース第36回公演
原作/トルストイ 構成・脚本・演出原田一樹
新「復活」
ネフリュードフとカチューシャ



studioQ氏



劇団キンダースペース創立30周年記念公演『新・復活』(原作:トルストイ。於:シアターX)を2月6日観る。

去年6月のブログで書いた『犬の心臓』(原作:ミハイル・ブルガーコフ、制作:名取事務所)の原田一樹氏が自身の劇団の記念公演として同じく構成・脚本・演出を手掛けている。原田氏の構成・脚本力に脱帽する。
トルストイの最後の長編小説であり、『戦争と平和』や『アンナ・カレーニナ』に比べて評価が落ちる。
主人公のネフリュードフとカチューシャの存在感も希薄であり描き方も浅いと言われていた。
原作が希薄だから構成・脚本化がやり易いのか100年前には島村抱月が大胆に脚色して松井須磨子主演で上演、主題歌の♪カチューシャ可愛いや〜♪も大ヒットした。
それから100年後に舞台化に取り組んだ原田氏は抱月と須磨子の舞台への強烈な思いと恋愛感情が交差する我儘にして純粋な関係とネフリュードフとカチューシャの関係を交差させながら原作の核心を的確に無駄なくしかもリアルに描いて観せてくれた。

ネフリュードフの曖昧な態度が結果的には無責任で許せないが、そのくせズルズルとカチューシャに拘って自分の基盤である荘園や貴族社会の人間関係まで壊してしまう。
一方、カチューシャも気持ちをハッキリさせないまま子どもを産み、失い、娼婦になっている。
何を考えているか分からない曖昧な性格と生き方が禍して毒殺の犯人にされてしまう。
主人公2人の弱さと曖昧さが主人公としては魅力がなく、当時はこんな人間は少なかったので、読者から評価されなかったのではないかと思う。
革命前のロシア社会崩壊の予感はあるが主人公たちの存在感を納得させるようにはトルストイも描ききれなかったのではないか。
しかし、トルストイは実在した主人公たちをリアルに描いていたのかもしれない。

ところが現在の社会にはこういう何を考えているか分からない曖昧で弱い人間が溢れている。そこを原田氏が見事に引き出してくれたので、現在の観客の感覚と一致したのではないかと思う。

照明と小道具だけで多様に変る舞台装置、2役、3役を演じながらそれぞれの役柄を見事に演じ分けてくれた俳優たちに感服した。

娼婦になってからのカチューシャを演じた瀬田ひろ美さんはシベリアまでも一緒に行くというネフリュードフを拒み続け、カチューシャを無条件に受け入れるという政治犯と結婚すると言いながらネフリュードフを愛していることを感じさせる演技は賞賛に値する。

私が誘って一緒に観た仲間や翌日観た女優から、誘ってくれてありがとうと感謝された。

キンダースペースと原田一樹氏の今後から眼が離せない。