劇団キンダースペース第31回公演
シアターX提携公演
イプセンの世界
「ロスメルスホルム」「幽霊」 代表作二本交互上演

原作/イプセン
構成・演出/原田一樹



 キンダースペースはここ十年間、ギリシャ悲劇、ユージン・オニール作品、チェーホフの「プラトーノフ」と小説を構成した「チェーホフ的チェーホフ」、そして昨年のイプセン「野鴨」を本公演として上演してまいりました。これらは全て現代リアリズム演劇の立脚点を確かめ、その新たな可能性を探るという趣旨の下での上演です。
 イプセンの戯曲が極めて現代的であるのは、彼が家庭というもの、親子(幽霊)や夫婦(ロスメルスホルム)というものを背景としながら、実はそこに投影されている、社会あるいは制度といったものの歪みを描き出そうとしているからです。
 イプセンの登場人物たちは、普段は隠されていて、いつの間にか姿を現す「制度」のもたらす圧迫を感じとり、抵抗し、闘いを挑み、敗れます。もちろんリアリズムというものを狭義に捉えた場合、この「制度」はイプセンにとってのキリスト教(ノルウェー国教会)や、当時の保守的な思想、社会通念という事になり、家庭に恵まれず、二十数年にわたって諸国を放浪せざるを得なかったイプセンの精神的苦闘が反映されている、という事になるのですが、イプセンが見ていた制度の歪みは、同時に又、現在の個人と社会の間に存在する歪みでもあります。
 イプセンが伝えるものは、現在の我々が毎日のように見せ付けられる犯罪、それを引き起こす焦燥感や、圧迫の姿と重なります。衝動的に見えるこれらの犯罪の背後には、制度、システム、社会通念と言った、正にイプセンが炙り出そうとしたものが横たわっています。
 強迫観念としての象徴的な存在、「ロスメルスホルム」の白い馬の幻影や、アルヴィング夫人にとっての「幽霊」を、劇場空間にどう登場させるか、演技としてのリアリズムと、形式としての実験性の演出における融合を試みて行きたいと考えています。
                    


構成・演出 原田一樹