「どん底」そのもの

舞台は「どん底」をモチーフに再現しており、キャストの演技力も抜群だった。

地下の傾きかけた木賃宿で暮らす貧困層の人々のその日暮らしを描いた物語。
宿主・コストゥイリョフを雁次郎、その妻ワシリーサをお万、ワシリーサの情夫ペーペルを権八、ナターシャをお花とし、日本名に置き換えているところは実に馴染みやすかった。

人生の底辺に暮らす人々の可笑しくも悲しい人間模様と、貧困という牢獄から抜け出すことを夢見ながらも、抜け出せない彼らは誰一人幸福になることがなく、どん底にいる市民たちは、歌と酒だけを娯楽に日々の生活を送っていく。

ここでは、鍵屋の女房や役者は登場しないが、他人を当てにして自らは何も行動しようとしない3人の暮らしの描写だけでも充分に可笑しみを表現していた。その悲惨な姿は悲しみを通り越し異様なほど面白いのである。

舞台セットは木賃宿の湿った不潔感や泥臭い雰囲気が見事に演出されていて、見応えのあるお芝居。また、ここの劇場は初めて来たが30~40人程度の客席で、まさに眼の前、直近で演じられる濃厚なお芝居を堪能した。是非にお勧めしたい。