「南京のキリスト」

 南京の奇望街で、父親を養うために娼婦をしている十五才の娼婦金花の部屋には真鍮のキリストの像がかかっていて、金花自身も幼い信仰を抱いている。ある日金花は客にうつされ悪性の楊梅瘡にかかる。治療をして客を取らずにいても一向に良くならない。同僚には病気を人にうつせば治るといわれるが、金花は決して客を取らないとキリスト像に誓う。が、ある夜、訪れた混血の外国人が強引に金花を抱こうとする、その男はキリストに瓜二つであった。その後金花の性病は快方に向かい、男は梅毒にかかり発狂して死ぬ。翌年の春、かつても金花の部屋にあがった日本人の旅行者は、その混血の外国人と知り合いであった。基督が現われて病を取り払ってくれたと金花に聞かされたあと、彼はその男の素性と最期を告げるべきかどうか迷う。

 「アグニの神」

 香港でインド魔術を使う老婆が、惠蓮(エレン)という少女の体にアグニの神を乗り移らせて予言をさせ、金を稼いでいる。日本人書生遠藤は、惠蓮は実はさらわれた日本領事の娘妙子ではないかと疑い乗り込むが、老婆の魔術に追い払われる。遠藤はしかしその後、妙子によって助けてほしいと書かれた手紙を拾う。手紙の中で妙子は、今夜意識を失う前にアグニの神になりすまし、自分を返さなければアグニの神が老婆の命を奪うと予言するつもりなので、翌朝、迎えにきてほしいと訴える。遠藤は夜を徹し老婆の部屋のドアの外に張り込む。やがて、部屋のなかからは、アグニの神の声が響いてくる。