レパートリーシアターVol.25
短編演劇アンソロジー 七〈近代作家シリーズ〉 芥川龍之介篇 その三
【僕たちの中の龍之介】
魔術・龍・白 より

脚本・構成・演出/原田一樹

 

魔術

ハッサン・カンの秘法を使うというマティラム・ミスラの邸を訪ねた「私」は、目の前で見る魔術に驚く。伝授を乞うとミスラは「欲を捨てなければならない」との条件を出す。ひと月後、魔術を習得した「私」は友人に披露、驚愕を得た後、友人の口車に乗ってカルタをすることになる。「欲」のない私は勝ちつづけるが、最後の大勝負で、「私」は魔術を使って勝つ。その瞬間「私」はまだ、ミスラの邸にいることに気づく。一月と思った一瞬の夢の間に「魔術を持つ資格のない人間」だと悟らされる。



奈良興福寺で蔵人にまで出世した恵印は、生まれついて鼻が大きく赤く、仲間から「鼻蔵」と陰で仇名されていた。面白くない恵印はある日、猿沢の池のほとりに立て札を立てる。「三月三日、この池より龍昇らんずるなり」。その日の内にこの噂は寺内を騒がせ、恵印がほくそ笑んだのもつかの間、町中はおろか奈良から摂津・河内・近江・丹波まで一円に広まり、恵印の心胆を寒からしめる。嘘を告白できぬまま、三月三日、猿沢の池には僧俗、身分の高いもの低いもの、老若男女がつめかける。虚偽の創造者、つまり創作家としての開き直りと、真実というものの危うさに目覚める恵印。その時、一天俄かに掻き曇り、池の面がざわめいたと思うと……



尻尾まで牛乳のような犬の「白」は、ある日、友達のクロが犬殺しに捕まる場に出くわす。吼えて知らせようとするが瞬間、犬殺しに睨まれて足がすくみ、逃げてしまう。やっと家に戻ってきた白を出迎えたのは、自らの真っ黒になった体と、飼い主の坊ちゃん嬢ちゃんに狂犬と思われての追放だった。自分の罪によることを知った白は、命をかけた人助けや戦いを続ける。それも死んでしまいたいとの思いだったが、不思議に死ぬことが出来ない。最後に自死を決意し、戻ってきたのは追い立てた飼い主の元であった。ここで白は、自分を抱きしめた嬢ちゃんの目に映っている、自らの真白い体を見る。