劇団キンダースペース
第22回公演
【アンチゴーヌ】
「アンチゴーヌ」は、対立の物語です。
秩序と衝動、幸福と宿命、平和と戦い、生活と冒険、政治と芸術、価値と無価値、豊かさと空虚。
アンチゴーヌとクレオンの二つの世代に象徴される、幾層にわたる対立が、
この物語の持っている圧倒的なエネルギーの源であり、
無機物のような現代に生きている私たちを撃ちます。
   

 原作/ソポクレス
演出/原田一樹

2001年 3/28(水)〜4/1(日)

両国シアターX(カイ) 

AB 各4ステージ
計8ステージ

前売券 3800円 当日券 4000円
ペア券 7000円
2組共通券 6000円 
養成所割引券 2500円 
学生割引 2000円
割引 

舞台写真

Aチーム
A-1
A-2

Bチーム
B-1
B-2
衛兵たち

撮影・中川忠満氏

STAFF

STAFF

             演出/原田一樹             
美術/松野潤
照明/森田三郎
音響/熊野大輔(withFriends)
衣裳/鳥居照子
小道具/高津映画装飾M
舞台監督/北条孝・上田光成(ニケステージワークス)
 
宣伝美術/桜井史人
ちらし写真/桑原正巳
ちらし印刷/時の美術社
協力/ワークユニット・キンダースペース友の会・上出明

A

A&B
B

泉龍太(キンダースペース)
古木杏子(キンダースペース)
武田竹美
田村寿啓
村信保(キンダースペース)
目黒幸子(劇団NLT)

井出口晃
鳥山真理子
小林元香(キンダースペース)
平野雄一郎(キンダースペース)
仲上満(キンダースペース)

瀬田ひろ美(キンダースペース)
白沢靖子(キンダースペース)
早野ゆかり(俳優座)
饗場圭一(情報工房)
岡野暢
山田登是(劇団NLT)

上演にあたって       

演出 原田一樹

【作品解説】
 ソポクレスの“アンティゴネ”は同じ作家の“オイディプス”とならび、ギリシャ悲劇の代表作の一本に数えられる作品です。  この芝居はいわばオイディプスの娘であることを自覚したアンティゴネの、権威あるいは権力への死を賭した挑戦であり、同時に、小さな者、力を持たぬ者と、力を得たものの戦いの中で、小さな者は唯一その持てるものである命を失い、支配するものは、権威を守るそのことと引き替えに一番近いもの、一番大事なものを失う、という悲劇として描かれます。          
 ここでの対立は、様々に読み取ることが出来ます。              
 人間が社会というシステムの中で生きていくということ、その事自体の矛盾に対する一人の個人と全体の対立、既に出来上がっているそういったシステムを守ろうとする権力者と、自己というものの存在の核を捜し求め、反抗する若者との対立。   
 それぞれの時代の持つ対立や争いを映して、この作品は何人もの現代の作家によって様々に書き替えられてきました。                      
 しかし、その根本にあるのは、人と人との殺し合いにも至る激烈な葛藤です。  
 21世紀、肥大した都市機能のなかに生きている我々は、社会というものが完成されたものであり、様々なかたちで定められたルールを守ってさえいれば、その中で安穏に暮らせるという共通の了解を持っています。そうして、その了解から外れるものを多く犯罪として社会の外においてきました。つまり、本来人間は幸福に暮らしたいという願いを持つ存在であり、そうである以上、傷つけ合ったり殺し合ったりするのは人間の本来の姿ではない、という考えです。                 
 これに反し、ギリシャ悲劇では人と人の殺し合いが多く描かれます。その殺し合いの元となる欲望や愛が、その殺し合いに到る葛藤と軋轢が、また殺し合いによる新たな憎しみや相克が、ギリシャ悲劇の物語の時間を生み出しています。       
 これはギリシャ悲劇が、我々の了解とは全く違って、人間というものを基本的にそのような間違いを犯すものとしてとらえているからです。人間の本来の姿は犯罪者であり、その残酷で容易に間違う様を描くことこそが物語の役割である、としてきたか
らです。                                  
 そして今、我々は、我々の想像力をはるかにこえて起こる犯罪の数々を目のあたりにすると、これら、二千四百年前の作品の方がはるかに正しく人間の本質を捕らえている、と思わざるを得ません。                        
 我々は、おそらく、いまこそギリシャ悲劇の物語を借りて、我々の了解外のものに言葉を与えるべきなのでしょう。       事件や犯罪を描くのに、ただ刺激や暴力性の激烈さを求めるのではなく、その中に我々の本質を見つめる鍵を見付けだすことです。                
 それこそが、今、ギリシャ劇を上演する意義である、と考えています。     

【演出ノート】                               
 今回のキンダースペース版“アンティゴネ”では、舞台を荒廃した学校、あるいは若者たちの名もない暴力の通り過ぎた街角でもあるような、いわば最近では都市の風景として、めずらしくもなくなりつつある場所に設定し、その中でこの対立の物語を上演したいと考えています。               この場所はいわば、何に対する怒りなのか、その行く先も出発点も失った見えない暴力と、その暴力の通過した荒廃の象徴です。その一方、一段高い場所にはこの町の行政官の代表であるクレオンの傷一つ無い部屋と美しい執務室が据えられてあります
 ここで、支配するものの代表であるクレオンと、小さきもの、持たざるものの代表であるアンティゴネの対立を描くわけですが、このふたつの方向の違う暴力の、どちらの暴力が、この場所への暴力となっているのか、この荒廃をもたらしているのか、
その緊張関係を常に意識しつつドラマの時間を紡ぎたいと考えています。     
 また、クレオンは今回男優、女優のWキャストによって演じられる予定です。  
 女性による管理も現代ではめずらしくありません。むしろ女性によるクレオンでこそ、対立の意味合いの、新たな側面がはっきりするかも知れません。       
 そのクレオンも、従っておろかな権威の象徴や、過ちを犯しやすい権力者としてよりも、その社会の冷静な管理者として描こうとしています。           
 彼(彼女)にとって重要なのは、人を操るためのより有効な政治的判断であり、それのみが人間の作る社会というものを存続させる唯一の手段であるという確信です。
 アンティゴネも、ただオイディプスの娘であるという宿命、兄の埋葬に全てを賭ける反抗者としではなく、理知的であり、またであるがゆえに自立を求めて煩悶する少女と言う部分に焦点をあてて描こうと考えています。              
 演劇の役割は、やはり「人の生きかた」を、葛藤のドラマの時間のなかに再構築することです。                                
 昨年の「夜明けに消えた」に引き続き、キンダースペースの本公演は、いかに演劇というものの持つ本質的な力を引き出し、現代をただ写し取るのではなく、そこに生きる人間一人一人の存在の問題に、どこまで戯曲の言葉を響かせ得るか、に挑戦して
いきたいと考えています。                          


あらすじ
【あらすじ】                                
 テーバイの町はオイディプスの失堕後、混乱していた。クレオンは為政者として地位に就くと、この町に秩序と平穏を導こうとする。が、オイディプスの遺児たち、アンティゴネの兄二人が反乱を起こし、失敗、二人は相討ちに様にして死ぬ。    
 クレオンは兄弟の一人を葬り、もう一人を逆賊としてその死体を野ざらしにしておき、手を触れたものは誰であれ死刑にすると禁を下す。             
 アンティゴネはクレオンに反抗し、一方の兄の埋葬を企て、自ら手を下す。   
 これを知ったクレオンは、アンティゴネの意志を捨てさせるため、その過ちをつきつけ、アンティゴネに見えていない世界の仕組みについて教える。        
 しかし、アンティゴネは最終的に自らの生の価値は、クレオンの示す世界にはないことに気づき、許婚であるクレオンの息子ハイモンとの愛も捨てて、自ら政治によって殺されるという決着に向かい突き進んでいく。                
 結局、ハイモンもアンティゴネと行動をともにして自害し、それを知ったクレオンの妻、ハイモンの母親(女性版では、クレオンの母、ハイモンの祖母)エウリュディケーも後を追う。                              
 クレオンは政治的な理念を通すことで、二人の肉親と、息子の許婚を失うことになった。                    

 アンケートより

第22回公演「アンチゴーヌ」アンケートより

●感動しました。一人一人が個性的で近ごろにない良い作品と役を演じられる姿にほれぼれしました。ひとときの、忘れられない思い出になりました。
 ひとつひとつの作品が、私の晩年の珠玉の財産となります。ありがとうございました。                                 (女性 無職)
●観ながら色々考えました。登場人物みんなの考えがちょっとずつ分かって、どれが正しいのか正しくないのか……それは判断できませんでしだ。
悲しいけど、社会とはそんなものですかね、みんなが正しいと思ってやっていることで、かならずしもすべてが幸せにはなれない。
 舞台の上から舞台を観たのは初めてで、ドキドキしました。楽しかった。
                                 (女性 学生)
●ぼくにとっては今までになかった演出方法のお芝居でした。まさか舞台上のさらに上から観ることになろうとは……。なんか会場全体が「芝居の空間」で、僕らがタイムスリップしてその時代に行き、空気のような存在になって、ある出来事を観ている……といった感じでした。
 クレオンとアンチゴーヌのあの長いやりとりのお芝居はすごかったです。
                                 (男性 声優)
●生きるとは何か、正義とは何か、何が正しくて何がまちがっているのか。それは誰にもわからないのかもしれません。真実は一つでも、ヒトの数だけ見方が存在する。それゆえに対立が絶えない。
 いつの世も自分の信じた道を進んでいくことの困難は変わらないのだと思いました。
                                (男性 養成所)
●大変おもしろかったです。おもしろいというか、とても考えさせられました。人の欲望というのはそれぞれに違うもの、その一人一人の欲望のぶつかり合いが、観る側に伝わって来たと思います。セットの組み方、観せ方も大変良かった。ギリシャの古い話は色んな意味で本当に勉強になります。これからもがんばってください。
                                 (女性 俳優)
●現代社会の人と人の在り方、矛盾など、難しい事で、普段気付かない事ですが、それをうまく観ている人に訴える、いい公演だったと思います。
                          (男性 スポーツトレーナー)
●終わってからのズーンとくる所が好きです。すごく楽しかった。
                              (男性 フリーター)

公演記録表紙へ戻る

インデックスに戻る