演劇時評



「悲劇喜劇2004 3月号劇評」より
岩佐壮四郎氏・近代文学

  舞台は一面に灰色の城砦で、下手にある階段を一段ずつ降りてきたハムレットが最後の一段を降りきる寸前、ふと足を止めて背後を振り返ると、いつのまにかオフィーリアをはじめ様々な登場人物達が城砦の上に出現し、声もなく踊っている、という場面から始まります。
 この冒頭も仄めかすように、すでに死んでしまったハムレットが冥界から、現世の自分を振り返るという趣向の劇です。いわば、死者のまなざしで「ハムレット」という劇を捕らえ直してみようという試みで、たしかに新しい企てです。
 父王の亡霊が出現しなかったり、「リチャード三世」よろしく、死んだ者達がクローディアスを脅かしたり、劇中劇が思い切って省略されていたり、惨劇が終わったあとフォーティンブラスの到着を告げるのが、死んでしまったオフィーリアだったりするというような設定も新鮮ですが、それを見つめているのが死んだハムレットとなると、劇もややこれまでのこの劇と異なったふうに見えるから不思議です。太宰治の「新ハムレット」を典拠とした作品にふさわしく、ポローニアスやクローディアスによる若者批判もユニークです。