秀逸! ぜひ、これはお薦めしたい!


エクセレント! この言葉に尽きる。

 一貫してリアリズム演劇を追求してきたキンダースペースの演劇に対する忠実な姿勢とともに、その完成度の高さ、粒のそろった出演陣の技量、極めて美しい舞台セットと衣装、そして今回は、座席数40程度という濃密な小空間でのアトリエ公演ということも相まって、「演じ手側」と「観る側」である私との、それはそれは素晴らしい空間の共有を堪能できた。

 芥川の6編の短編小説の世界を原田一樹さんの秀逸な再構成・演出で、まるで円舞曲に聞き入るかのように芝居を楽しめた。これだから観劇は止められない。そして、これだから、キンダースペースは見逃せない。

 初心者の方々にも安心してお薦めできる「超」良質の舞台。私、キンダーとは何の関係もありませんが、111日(日)まで上演されるので、ぜひ皆さんも、芥川の短編小説を新たな感覚でとらえた舞台芸術を楽しんで頂きたいと思います!純粋にそう思うのです。

 もう一つだけ。キンダーのメンバーは皆、接客態度が誠実そのものなのも、当たり前ながら、これができていない劇団も少なくないので、好感が持てる。

雨の中、西川口は遠いなと勝手に思いこ込んでいたが、いやー、やっぱり観て良かった。逆に、これを見逃したらと思うと、背筋が寒くなる。そして、西川口は案外近い。

 私が観たのは初日というのに、凄い完成度。出演陣も気になるような「噛み」などまったくなく、すご~く上手い。そう、皆です。ふつうは、上手いなーと思う役者が居ても、「これはいかんなー」という役者もいるものだが、本当にキンダースペースの役者陣は凄い!。女優も男優も皆、粒ぞろい。だから、安心して芝居の世界に心地よく入り込めるのです。

 では、各作品ごとに私の一言感想を。

【羅生門】
 会場に入ると、まず驚いたのが、アトリエ公演でも決して手を抜かない舞台セットのセンスの良さ。すぐに羅生門を冒頭に持ってきた理由が飲み込めた。いやー、これもエクセレント!
 言わずと知れた芥川の処女作。秋元麻衣子さんの絶妙の語りから、下人が出てきて、その衣装にもびっくり。いいなー、キンダーは。
 ここでは老婆役の小林元香が最高だった。ほんと、声質も他の演目とは少々変え、ホント、老婆に見えちゃった(ごめんないさい)。

【或阿呆の一生】
 これは瀬田ひろ美の語り。極めて短い。瀬田さん、お顔も美しいけど、声も美しく、優しい声だなー。

【疑惑】
 震災で倒壊した梁に下半身をつぶされ、身動きできずに苦しむ妻を、迫りくる火の粉を前に、生きながら焼死させることなど可哀そうでできないと自らの手で死なせた夫が、自分の心の中に増幅する「疑惑」を教授に打ち分ける。
 この物語は、作り方によっては、もっとグロを際立たせることも出来ようが、原田さんはやはりそうはしなかった。テキスト自体の魅力を大事に構成した点がキンダー流か。
 ここでは、夫・中村玄道役の瀧本志優の「語り」の凄まじさが鳥肌が立つほど良かった。後で瀬田さんに聞くと、今回が初とか。「えっ、ウソー」と耳を疑うほど上手かった。ブラボー!

【龍】
 池に龍が住み、近く天に昇るとウソの立て札を書いた僧・恵印と、それに翻弄され盛り上がる民衆の心理を描いた物語。ここでは、恵印役の西村剛士(彼のみ客演)が味わい深く名演。村の女役・安食真由美もいい味を出していた。ここでも、恵印の叔母役の小林元香が流石。

【春の夜】
 看護婦役の深町麻子がいい味を出していたが、正直、あまりに短く、もう少し、観たかった。これは物足りなさが残った作品。

【藪の中】
 こちらは、舞台でも映画でも何度も取り上げられている芥川の名作。殺人犯の多襄丸よりも結婚間もない真砂と武弘の夫婦の心理にスポットを当て、興味深く観られた。これは、すごく良い! 
 ここでは、何と言っても新妻・真砂役の瀬田ひろ美が秀逸。彼女に合っている。妖艶さと美しさを兼ね備えた瀬田さんの魅力が爆発。もし私が演出家でも、やはり彼女を使うでしょう、なんちゃって。
 ここでも、やり様によっては、もっとエロスを取り入れられると思うのだが、やはり原田さんはそれもしない。でも、それがキンダーらしくて、良い。

【尾生の信】
秋元、瀬田、小林、深町、安食の5女優によるエピローグ的な「語り」。

 映画もそうだが、芝居においても、集客やウケを狙うなら、どんな物語にも笑い・エロ・グロ的な要素は入れ込むものだが、前述のように、原田さんは原作に忠実なリアリズムを真摯に追う。枝葉は入れないようだ。
 改めて感じたのは、キンダースペースの魅力は実はそこにあるのではとも、帰路、感じられた。

 でも、そんなキンダーの姿勢を貫くには、やはり出演陣の技量が必要十分条件だ。でも、キンダーにはこれがある。だから、作品が良質になる。だから観たいのだ。