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「美術館で教わったこと」

 私の初めての海外旅行はN.Y.でした。といっても、N.Y.に2回と香港に行っただけですけど……
 一度目は「自由の女神」だの「MOMA」だの、いわゆる観光旅行を満喫しました。……知ってました?「自由の女神」って彼女の身体の中に螺旋階段が延々作ってありまして、頭まで登れるんですよ。いわゆる「ハリボテ」のようになっていて、裏側はなんだか「セット」のようでした。あの王冠の前に開いている四角い穴は実は窓なのですよ、そんでその窓から外が見下ろせるようになっているのですねぇ……お台場に来たやつもそうなってんのかな?
 そしてやはりN.Y.のすごいのは美術館! MOMA以外にも自然史博物館やメトロポリタンなどなど、すばらしい美術館がいっぱい! そして、それまで私が観た日本の美術館と違うのは、すっごく有名な絵や彫刻が、日本だったらきっとガラス張りかなんかになっていて、近くには寄れないだろうけど、そういう価値のものがなんだかゴロンと置いてあったりするところ。
 勿体つけない……というか、他にもすごいものがいっぱいあるから、いちいちそんなことしてられない……という感覚が、芸術を特別なものと考えていないお国柄があらわれて面白かったですね。

 それから私は知り合いの美術家にMOMAに連れていってもらったのですが、その時、若い女の先生と小学生低学年位の子どもたち15人位が、美術館の一室の床にべったりと座り込んで、何やらディスカッションをしている光景が目に入りました。
 友達が言うことには、そのコーナーに飾ってあるのが、戦前、戦争中、戦後の各時代に描かれたひとりの作家の絵だそうで、そのことを先生は子どもたちに教えていると言うのです。私は感激してしまいました。
 私は市立の中学校・都立の高校と通いましたが、何回か美術館見学みたいなものがありました。しかし私の体験したそれは、入口のところで解散し出口のところで集合する、何の説明もない、観たくない人は観なくてもいい……といった見学だったのです。
 改めてその3時代の絵を観ると、感じるものがありました。面白かったのは、戦争中の絵より戦後の絵の方が暗い色調で描いてあることでした。
 これは大人になった私が面白いと感じることかもしれませんが、小学生の彼らは今日のことを或いは忘れてしまうかもしれませんが、でも、美術館の絵の前に座って、先生からそういうような話を聞いたという体験は、彼らがこの先「絵」を観る時に、潜在意識の中に必ずある事柄で、それはとっても大事なことのような気がしました。
 ただ「絵を眺める」のではなくて、「絵を描いた作者の気持ちに近づく」ことが出来る……、こういうことが「芝居」の原点なのにな……と思いました。