「劇界56人によるエッセイ特集 わたしの好きな劇場・好きな芝居」
2004年 テアトロ9月号 

瀬田ひろ美


高校の時に見た状況劇場の不忍池の紅テント。整理券を取るのに、大雨の中早朝から並んでいるのを見かねて、当時の主演女優の李礼仙さんが「お稽古見せてあげる」と中に入れてくれました。唐十郎氏のすさまじいばかりの稽古を覗き、しばらくは状況劇場熱が冷めませんでした。
1981年、U・快連邦が、北村想氏の「最後の淋しい猫」を代々木の大使館跡地で上演。空間演技にいらした尼子狂児氏が、悲嘆にくれる主人公に向って「これが世界だ!」と叫ぶと、照明が一挙に周りの住宅街の「世界」を映し出す。空間が拡がっていくのに閉息感を感じ、野外劇の面白さに感動。
そして、石川県中島町の能登演劇堂。'98年に旗揚げした町民劇団はこの劇場を本拠に活躍めざましく、今や町の人気俳優を次々に生み出しています。芝居の翌日、中島町の駅舎で地元の人同士が話しているのは、昨日の町民劇団の芝居のことです。なにより「演劇の劇場」としての素晴らしい空間! これからの上演企画と活動に期待します。