舞台上に「小劇場空間」仮設

演劇ホールの「活用」探る

 熊本市大江の県立劇場(川本雄三館長)で、九・十の両日、演劇ホールの舞台上に仮設ステージとして客席を設けて芝居が上演された。「小劇場演劇」と呼ばれる舞台形式で、小ホールのない同劇場が、自主事業として初めて企画。今回の公演は、県内のアマチュア劇団にほとんど利用されていない演劇ホールの利用可能性を探る実験的な舞台でもあった。

県立劇場が“実験”

 「反応はよかった。小さな空間で見る芝居もいい、と答えてくれたアンケートもあった」。県立劇場企画事業課は初の試みに安堵の様子。
 小劇場演劇は東京など都市部で盛んで、客席数二百〜三百程度のこぢんまりとした空間で上演される。簡単な装置と小道具で演じられることが多く、観客が役者の息遣いを間近に感じられるのが特徴。このほどオープンした北九州市の北九州芸術劇場は小劇場を併設しているが、所有する公共ホールはごく少数だ。

 今回は、演劇ホールの舞台上に横幅・奥行きとも九メートルのステージを仮設。ステージを三方向から囲むように百四十席設けた。すべて県劇に常備している素材で組み立てたという。ふだんの演劇ホールと異質の空間で、在京劇団キンダースペースの役者三人がそれぞれ一人芝居を披露した。

 熊本市周辺にはアマ劇団が十数団体あり、多くは小劇場演劇のスタイル。そのアマ劇団が今回のように県劇で公演するのは厳しい。

 演劇ホール(客席数約二百)の使用料は舞台と客席合わせて一日約十六万円。使用料規定に舞台だけの区別はない。県内のバレエや日本舞踊などの団体は同ホールを利用しているが、アマ劇団が自主公演で使用した例はここ数年ないという。演劇規模が小さかったり来場者数が客席数に見合わないこともあるが、「経済的に余裕のないアマ劇団は高額な使用料がネック」と同劇場舞台技術課参事で劇団市民舞台代表の五島和幸さん。

 団員の多い劇団はメルパルク熊本や熊本市産業文化会館などで公演しているが、規模の小さな劇団は同市総合女性センターや民間の同仁堂ホールなどの使用料が手軽な会場を利用している。このうち女性センター・多目的ホールの使用料は一日三万円程度と県劇に比べ“格安”だ。

 「県劇は使用料が高く公演を考えたことなどなかった。もし使用料が手軽で今回のような舞台ができるなら取り組んでみたい」と同市で活動する劇団員。これに対し県劇は「例えば県劇の主催事業にすれば、アマ劇団の公演機会をつくれる」(企画事業課)と検討の構えを示す。

 五島さんは「劇場の物理的な制約や使用料規定の問題はあるが、アマ劇団の利用を含め今回の公演で演劇ホールの利用の可能性は広がったと思う。仮設ステージと客席の配置も工夫しだいでいろんな形にできる。小劇場演劇を知らない人にも知ってもらえる機会になったと思う」と今回の公演の意義を話す。

 県劇では来年三月二十六〜二十八日も、自主事業として演劇ホール仮設舞台でキンダースペースの一人芝居が上演される。