熊本日日新聞

劇団キンダースペース 熊本公演「モノドラマ」
【役者たちの静かな“迫力”】

 開演数分前。普通だと上がるはずの緞帳が背中側に下りていく。県立劇場の演劇ホール舞台上に特設された客席に座っていると、それだけで異空間に誘われた。
 昨年八月に続き同劇場で開かれた在京劇団キンダースペース(原田一樹代表)の公演「モノドラマ」。森鴎外の「高瀬舟」や菊池寛の「藤十郎の恋」など日本人作家の小説六作品を役者たちが一人芝居風に見せる舞台は、静かな“迫力”で観客席に迫ってきた。
 見慣れた芝居と違い、一人の役者が小説を語りながら物語は進む。ラジオドラマが舞台上で一人で演じられる感じだ。セットや音響、照明といった演出効果は最小限。話術と雰囲気で、小説の世界を広げさせる役者たちの力量はさすがだった。
 熊本ではお目にかかれない種類の演劇を提供してくれた意義は大きい。演劇ホールの舞台上に小演劇空間をつくった県立劇場の取り組みも頼もしい。
 同ホールは残念ながら、県内のアマチュア劇団の公演ではほとんど使われていない。大きすぎる空間と高額な使用料がネックになっているからだ。この「特設舞台で熊本の劇団の芝居を見てみたい」。そんな衝動に駆られながら会場を後にした。(岡本)